いつかの夕暮れに君は有り余る悲しみだけを抱いて、綺麗に笑った。
 
 
 
『夕暮れセンチメンタル』
 
 
 
俺が7班にいて木の葉もやたら平和だった頃、一度だけカカシと一緒に二人っきりで帰ったことがある。
いつもは近くまで同じ道のナルトやサクラも何かの用事でいなくて、カカシもやっぱり何かの用事で俺と帰り道が一緒だったのだ。全くの、偶然。
 
 
川原の土手沿いをカカシが一歩半先を歩き、俺はその後ろを両手をポケットにつっこみながら俯いて歩いていた。
カカシは前を向いて歩いていたようだがたまに顔を左に向けて川向こうの夕焼けをみているようだった。
そして俺達はぽつぽつと思い出したかのように、夕焼けが綺麗だのあの忍術が苦手だのと脈絡もなくしゃべっていた。
カカシの声は低くて囁くようにしゃべるので俺はなんだか妙に熱心にその声を聞いていた気がする。
 
「あれだねー。俺とお前が二人だけになるなんてあんまないよねー。」
 
さっきまで今晩の夕飯は何にしようかという話をしていたのに、ふと思い出したようにカカシがそう言った。
ころころ話題が変わるやつだなーとか思いながらちょっと顔をあげるとカカシはいつものように笑いながら少し振り返った。
青白い顔が今は夕日のせいで赤い。
なんだか眩しくて、俺は少し目を細めた。
 
「そうだな。」
 
俺がそう言うとカカシは何を思ったか急に立ち止まりこちらに向き直った。
振り向いた拍子に揺れたカカシの銀の髪の毛がさっきまでみていた川面のようにちかちかと光った。
綺麗だな。
 
「サスケっていつもその顔だね。」
 
カカシはそう言うとにっこり笑って自分の眉間を細くて長い指でとんとん、と軽く叩いた。
どうやら皺がよってると言いたいらしい。
その動作が嫌味っぽいはずなのに邪気も無く笑うものだから、俺はいつものようにイラつくことはなかった。
思わずそっと自分の眉間にカカシと同じように指先で触れた。
 
「子供なんだからもっと明るい顔しときなよ、ね。」
 
ねって…おもしろくもないのにあんたみたいにへらへらできるかよ、そう言おうと思ってはたと口を噤んだ。
カカシの笑顔。
俺はいつだかその見慣れた、片目を細めるという仕草に、本当に微かにだが違和感を感じたときがあった。
あの違和感は一体なんだろうと時節ぼんやりと思っていたが、目の前の写真のように変わり映えのすることの無いカカシの笑顔を見てなんだか漠然とだが理解した気がする。
そう、カカシはいつも笑顔なのだ。7班でいる時も誰といる時も全くの同じ笑顔。
その変わらない笑顔にいつだかの俺は違和感を感じたのだ。
俺は一人そう納得して、何気なく、その発見を子供の自慢のようにカカシに向かって言い放ってしまった。
 
大人が傷つくものなんだって、わかるはずもなかった。
 
 
「あんたっていっつも同じ顔で笑うのな。」
 
 
カカシの、その邪気の無い完璧な笑顔に、ひびが入った気がした。
 
僅かな、しかし微かだが深い亀裂が。
その通行人からみれば完璧な笑顔のわずかな歪みは、俺をひどく後悔させた。
 
「あ、悪い。」
 
 
一種異様なその表情の変貌に奪われていたのであろう視線を、気まずくなって、埃っぽい土の地面に逸らせた。
まさか、大人のカカシがここまでガキの俺の言葉に傷つくなんて。
言われたことは、なかったのだろうか。
俺だけなのだろうか、カカシを見ていたのは。
 
妙な疑問に心がざわついた。
何かが頭を掠めるような、心が一指し指でなぞられるような。
 
 
「仕方ないんだよ。」
 
 
低い声が囁くように答える。中断される思考。
つぶやきにも似たそれに、俺は埃っぽい地面から目線をあげカカシの顔を見た。
 
ゆるやかな川風が一際強くカカシの髪を乱す。
乱反射する銀の隙間から垣間見せた表情に息を、呑んだ。
 
 
「泣き方も怒り方も、全部置いてきてしまったんだから。」
 
 
ひっそりと笑う夕暮れの微笑み。
俺はきっともう、二度とその表情を忘れることができないと思う。
 
 
 
理解不能の激情に駆られ、カカシの腕を強く掴む。
それを見て、やっぱり変わらずに微笑むカカシをみて無性に泣きたくなった。
落ちていく夕日の中、赤く染まるその笑顔だけが悲し過ぎる。
泣き方も怒り方も忘れてしまった男の腕をこのまま力任せにひっぱり、頭を掻き抱いてやりたかった。
 
 
もう大丈夫。
もう泣いてもいいんだ。
もう、そんな顔で笑うな。
 
 
この男を苦しめる全てのものから守ってやりたかった。
 
強く握った掌の中でカカシの腕が軋む。
腕を離すまいと必死に握る俺の手の甲に、カカシの俺より一回りも大きい掌が重なった。
 
「ありがと、ね。」
 
そうしてまたいつものように笑うカカシの前に、俺の小さな手はあまりに無力だった。
今のこの俺の腕ではあんたを包み込むことは不可能なんだよ。
 
「ごめんな。」
 
小さく震える声で言うとカカシはもう一度、ありがとう、と呟いた。
 
 
 
 
二人だけの帰り道はそれ以来もうなかったし、あんな会話ももうすることは無かった。
だけど俺は未だに忘れられないんだ。
夕日に染め上げられ、独り有り余る悲しみ抱いて笑うあの姿が。
 
あの時俺は、恋も愛も全部すっとばして、ただ、ただ抱き締めてやりたかったんだよ。
 
 
 
 
 
僕の伸ばした腕の先、
今の君は有り余る幸福を抱いて綺麗に笑っていた。
 
 
 
 
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル