いつからなの?
こんなにも目眩がするのは
いつからなの?
こんなにも苦しいのは
いつからなの?
遊びじゃなくなってしまったのは
この遊びを恋と笑って
はじめは遊びのつもりだったのに。あんまり好きだ好きだというもんだから遊びのつもりでのってあげただけなのに。
午後2時。ちょうどオレが起きてカーテンを開ける時間。いつもなら黒い髪した子供がオレの家の玄関の前をうろついている時間なのに今日はまだ来ていない。
「昼飯まだだろ?」「修行みてくれ。」
そんなことを言ってはオレの家へ上がってくるのが近頃では、
「好きだ。」
そればっかり。
あんまりオレが相手にしないもんだからついには思いつめた表情でこんなことまで言い出すしまつ。
「遊びでいいから。」
10年早いんだよ、ガキ。
それでも存外真剣な黒い瞳を見ているうちに遊びに乗ってやる気になったのだ。
「オレを退屈させないでね?」
にっこり笑顔で言えばちょろいもので。高揚した頬が赤く染まって可愛かった。なんていったってまだまだお子様だからね。
そんな会話をした日からもサスケは変わらずオレの家へ足しげく通ってくる。懲りずに、毎日。
でも今日はちょっと遅い、みたいだ。
少しだけ寒い風と少しだけ暖かい白い陽光にウッキー君のくすんだ緑が気持ちよさそうにゆったりと揺れる。
窓辺に頬杖をついて外を眺めるオレはまるで恋人を待っているみたい。そう思うと胸の奥で小さなさざめきを感じた。あの日から。「遊びでいいから。」と見つめられた日から少しずつ育ち行く違和感を。
目を閉じて瞼に白い秋の日差しを感じながら心の奥を覗いてみる。
待っているの?あの子を。
気がつけば側にいるのが当たり前で。オレの部屋に黒髪が揺れるのは彼がいる時だけで。
そしてそれに安心しているのもまた、認めたくない事実で。
目を閉じていると軽快な足取りが聞こえてきた。子供特有の軽い足取り。
その音を聞いた途端オレは静かな想いですんなり納得した。まるで、長い間の違和感が嘘のように。
ああ、そうか、この胸のざわめきはあの子供が波立たせているのか。
いつのまにあいつはこんなにも深くまで入ってきてしまったんだろう。
サスケの足元から伝わる波紋が次第に大きくなり、こんなにもオレの胸を高鳴らせる。
不安にさせる。
浅瀬に揺らめく波の音が切なくて、想いは愛しいほどにまでざわめいた。
足音が窓辺の下で止まった。ぜぇぜぇと息切れの音に思わず笑みがこぼれた。
「待ってたのか?」
バカだね、苦しいってのにそんな期待した声だしちゃって。性悪な大人はますます素直になれないよ。
ふわりと目を開けてみると、玄関口には肩で息をしながら顔を真っ赤にしているサスケが目に入った。
とても苦しそうなのに、それでもあの「遊びでいいから。」と言った時と同じ表情をしたサスケがオレを見上げていた。
ああ、その声、その瞳を見るだけでもう。
こんなにも心の奥の沖間にたなびく波の音は苦しくて、愛しいほどにまで胸は高鳴ってしまうんだよ。
「別に?外、見てた。」
それでも本気になってしまっただなんて悔しくて言えないからそういってやるとサスケは目に見えて失望の色を浮かべた。
が、帰る気はとうていないらしく肩を落としながらも玄関をくぐってくるのが見えた。
ごめんね、今はまだ、素直になれないんだ。
気のないふりは割と得意だったのだけれど、そのうちごまかせなくてすぐにばれてしまうかも。
でもそれまでは、オレの手の中で遊んでて。
ガチャリと扉の開く音を聞きながら、サスケがきたらキスしてやろうと思った。
本気で恋した遊びのキスを。
いつからなの?
こんなにも愛しいものができてしまったのは。
いつからなの?
子供だと思っていたのが王子様になっていたのは。
気がつかなかったオレを笑って。
気がついてしまったオレを笑って。
そしてどうか、
この遊びを恋と笑って。